2022年12月4日日曜日

2022年度ミヤマシジミ研究会 講演・活動報告会  2022 Annual meeting of Research Group of Lycaeides argyrognomon

   ミヤマシジミ研究会は,絶滅危惧種である里山の小さな命ミヤマシジミを守っていく活動に係わっている人々が集まり,情報を交換するとともに交流を深め,さらに絶滅危惧種や生物多様性の保全・保護活動の一層の推進と拡大を図ることを目的として平成25年に設立された団体です.その活動の一環として毎年,講演会と活動報告会を開催しております.

2022年は123日(土)1330から東京大学教授の宮下直氏をお招きして「伊那谷の里山とミヤマシジミ:自然の歴史的変遷から考える」というタイトルで基調講演をしていただきました.また天竜川上流河川事務所の矢澤諒人氏には河川事務所の保全の取り組みについて報告いただき,さらに本研究会の中村会長が長野県外と海外のミヤマシジミ調査報告がありました.また例年のように会員からの11件の活動報告がありました.

以下にその内容を紹介します.

プログラム 

1300 受付開始  司会 江田慧子事務局長(関西学院大学)

1330 開会 挨拶 中村寛志会長       

1335 基調講演 

*「伊那谷の里山とミヤマシジミ:自然の歴史的変遷から考える」 

宮下 (ただし) 氏(東京大学大学院農学生命科学研究科教授)


貴重な過去の標本


【要旨】日本の気候は温暖多雨で、自然のまま放置すると基本的に森林に遷移する。草原性の生物の多くは、氷河期に大陸から移住してきたもので、縄文期以降は火山草原や大河川などを除き、人間活動に依存して暮らしてきた。ミヤマシジミもその一例であろう。昭和半ばまで、伊那谷では各地で様々な蝶がいて、初秋に山に行けば、どれから採集するか迷うほどだった。だが2010年以降、故郷の伊那谷へ蝶の生息確認のために時々訪れるようになってから、その面影は完全に失われたことに気づいた。何が起きたのか、いろいろ考えたが、やはり開発(オーバーユース)と放棄(アンダーユース)の二重苦が主要因であることは疑いないと思う。ところが、2015年の秋に飯島町を訪れた際に、道路わきの草地に凄まじい数のミヤマシジミがいる生息地を見つけた。それ以降、学生らとともに飯島町での研究プロジェクトを進めている。飯島町には、100近い生息パッチと1000匹を超えるミヤマシジミが今でも生息している。隣接する中川村にも、農地周辺の生息地が少なからず残っている。そこには、所々キキョウ、オミナエシ、センブリ、リンドウなどの希少植物も見られる。これは、かつて伊那谷に広大にあった草原の原風景の箱庭のようなものだろう。本講演では、人と自然のかかわりの歴史を紐解くとともに、伊那谷のミヤマシジミが置かれた現状や今後の展望を述べる機会としたい。


1425 特別報告

(1)「天竜川上流河川事務所の取り組み」

矢澤諒人(まさと) 氏(天竜川上流河川事務所管理課 技官

 



【要旨】天竜川上流河川事務所が管轄する河川区間には絶滅危惧ⅠB類の蝶であるミヤマシジミの生息が確認されている。天竜川、三峰川、太田切川の堤防では大きな個体群が確認されている箇所があり、全国有数の生息地とみられている。一方当事務所では、護岸工事や堤防法面の維持管理のための除草工事を行っていることから、生息する生物への生態環境へ与える影響が大きいため、工事を実施する際は事前に環境調査や学識者等からの助言をいただき、影響を最小限とするよう対策を講じている。ミヤマシジミの保全においては、食草となるコマツナギを除伐しないよう配慮した除草工事を実施するため、毎年除草着手前に伊那ミヤマシジミを守る会の岡村会長、信州大学中村先生に同行いただき、担当職員と施工業者で現地の確認を行っている。施工する受注業者は毎年異なったり、担当の監督職員は異動があるため、過去からの情報を引き継いでいく重要な機会となっている。河川行政においては河川環境への配慮や調和した取り組みを推進しており、当事務所においてもミヤマシジミの保護活動との協調や、保護団体の活動の表彰や研究機関との情報共有、それら取り組みを広報するなど積極的な情報発信を行っている。今回は天竜川上流河川事務所の取り組みに加え、天竜川の下流(静岡県浜松市)における国土交通省とミヤマシジミの保護活動の関わりについても紹介を行う。


 (2)「長野県外に生息しているミヤマシジミの調査報告」

中村寛志 氏(ミヤマシジミ研究会会長)



モンゴルでの調査 2012年

【要旨】長野県内に生息しているミヤマシジミに関しては本研究会に参加している皆様をはじめいろいろな団体が今まで調査報告を行っている.今回は長野県以外の地域での2015年から2021年までの調査結果を報告します.調査場所は過去に記録のある地点を選び,新潟県では十日町市(信濃川)と糸魚川市(姫川),静岡県では浜松市天竜川運動公園,川根町(大井川),安部川流域,茨城県,栃木県さくら市(鬼怒川)そして海外の韓国とモンゴルである.国内の調査結果は下の表に示したが,いずれの地域でもかつての生息地で発見される個体数が激減している.韓国でも同様に生息地が減少していた.ここの食草はノハラクサフジとシナガワハギであった.モンゴルではレンゲソウ属の植物が食草であった.

調査記録


1505 休憩

1515 活動報告

  (1) 伊那市役所耕地林務課              内山輝美 氏

伊那市ますみヶ丘での昆虫教室


  (2) 伊那ミヤマシジミを守る会     岡村 裕 氏

  


  (3) 飯島ミヤマシジミ里の会              出戸秀典 氏


    (4) ミヤマ株式会社              村上  実 氏


    (5) 高瀬川を愛する会            矢口結以 氏



    (6) NTN株式会社 長野製作所      唐澤 聡 氏


    (7) 辰野生きものネットワーク     土田秀実 氏

辰野町荒神山のミヤマシジミの個体数推移

   (8) 伊那西小学校                北村勝行 氏



(9) 上牧里山づくり   大村洋一氏


 

 (10) 伊那市西春近小出一区    森川裕司氏 


 1630 意見交換

 コマツナギの管理方法とミヤマシジミへの影響について活発な議論がなされた.またオンライン参加の方からもいろんな意見や質問が寄せられ有意義な研究会となった.

 1700 閉会 

 今年は大芝高原に新設された「森の学び舎」の多目的ホールでの対面とオンラインのハイブリッドで開催いたしました.参加者は会場に35名,オンラインで23名で合計58名でした.  


令和42022)年度ミヤマシジミ研究会役員会・総会

研究会に先立ち午前中に役員会・総会が行われ,1R3年度事業報告,2R3年度決算報告,3R4年度予算案,4R4年度事業中間報告,5R5年度役員案が承認されました.

R4年度事業中間報告(抜粋)

1.事業

(1) ミヤマシジミ生息環境の保全活動

*ミヤマ株式会社:戸隠花伝舎の生物多様性調査と環境教育.
*横山地区ミヤマシジミを守る会:継続モニタリング(月2回調査),オーナー制による保全保護 ケーブルテレビ放映
*伊那市ミヤマシジミを守る会:生息地の継続モニタリング,小出城址(伊那市西春近小出一区,約10002)でのミヤマシジミ生息地づくり,クリーンセンター保護区の個体群保全 計画通り
*辰野生きものネットワーク:荒神山継続モニタリングと生息環境整備(草刈りなど),小学校での環境教育  計画通り
NTN長野製作所保護区:保護区での継続モニタリング
*飯島町:ミヤマシジミ里の会(会長:宮下直,事務局:出戸秀典),林幸男さん保護区のモニタリング

 (2) 観察会

*荒神山ミヤマシジミ講演会と観察会 828(実施)
*市民の森観察会2回 723910(実施)
*環境展 20232月( )日〜2月( )日(予定)

(3) 研究会・講演会 

2022年度講演会・研究発表会・総会
     日程:123日(土),大芝高原

2.研究・調査活動

 * 長野県内の生息地調査と保全団体との交流
・高瀬川のミヤマシジミ視察 高瀬川を愛する会(会長:吉富政宣)
・中川村のミヤマシジミ視察 中川植物観察・保全の会(代表:桂川雅信)
長野県外の生息地調査 茨城県・栃木県
ますみヶ丘のトランセクト調査(モニタリング1000里山調査)

学会発表 

・信州昆虫学会(信大理学部)521(土)・22日(日)
長野県南信地方におけるミヤマシジミの生息状況の報告」 中村寛志(信州大学名誉教授)・岡村裕(伊那ミヤマシジミを守る会)・土田秀実(辰野生きものネットワーク)・井原道夫(日本鱗翅学会)・江田慧子(関西学院大学)

3.生物多様性部会での受託事業(別会計)
*モニタリング1000高山帯のチョウ類調査(受託)
*市民の森平地林における市民参加型観察会と自然環境調査(受託)
*小谷村におけるギフチョウ・ヒメギフチョウその他希少チョウ類の生息調査と保全に関する研究(受託)

 








2022年9月25日日曜日

伊那市ますみヶ丘里モニ調査(11回目)ー3化のミヤマシジミー

 

伊那市ますみヶ丘保護区のミヤマシジミ
3化目のオス
 ミヤマシジミ研究会が,モニタリングサイト1000の里山チョウ類調査を続けている伊那市ますみヶ丘(標高950m)でのミヤマシジミです.2022年9月25日,当日は今年で11回目の調査,天気は快晴,調査開始時の気温は23℃,微風.ミヤマシジミ研究会と横山地区のミヤマシジミを守る会が保護している生息エリアでは3化目の成虫の発生終わりの時期です.

 以下にミヤマシジミと調査の様子とモニ1000調査で見つかったチョウを紹介します.

ミヤマシジミ♂ 久しぶりの好天で活発に活動していました

ミヤマシジミのオスがツバメシジミのメスにアタック
もちろん拒否.
この時期のミヤマシジミのメスは交尾どころか産卵に忙しい

産卵場所を探すミヤマシジミのメス

ミヤマシジミの越冬卵を見つけました.
コマツナギの根元近くの枯れ枝に産卵されていました

伊那市鳩吹公園公園内にはミヤマシジミ保護区があります.
毎年伊那市とミヤマシジミ研究会が,ここで地域の子ども
たちを対象にミヤマシジミの観察会を開いています.
今年は1化成虫がほとんど見られず心配しましたが,
3化は確認できました例年より少なく心配です.
横山地区の農家の方は田畑の畔に自分のコマツナギを植えて
オーナーとして草刈りと管理をしてしてミヤマシジミを
保護しています.ここのオーナーは森田屋さん

この日,調査で確認できた主なチョウを写真に撮りました.

クロヒカゲ♀

ウラギンヒョウモン♀

キベリタテハ
今年はクジャクチョウが確認できなかったのが気がかりです.

また機会があったら里モニサイト番号S273ますみヶ丘平地林のチョウを紹介します.

2022年9月16日金曜日

令和4年度第2回ますみヶ丘昆虫の採集・観察学習会

 2022年9月10日(土)に,ミヤマシジミ研究会と伊那市の主催で,ますみヶ丘市民の森において「平成4年度第2回の昆虫の採集・観察会」を実施しました.2020年から始めた昆虫マイスター初級講座(2)として次のような学習をしながら昆虫の採集と観察を行いました.

1.ミヤマシジミの成虫と幼虫を観察しよう
2.昆虫の体のつくりを学ぼう
3.バッタやトンボの名前を覚えよう
4.うまくスケッチができるようになろう

ミヤマシジミ研究会の中村会長が今日の学習テーマを説明

関西学院大学助教の江田慧子さんが三角紙のつくり方を講習
簡単そうできれいに作るにはコツがいるね

鳩吹公園のミヤマシジミ保護区で成虫を観察

ミヤマシジミ 3化目のきれいなオス成虫です
メス成虫
今日のテーマはトンボを採集して名前を調べよう

長野県地域振興局の福本さんが持ってきたトンボの標本で名前調べ

これは何というトンボかな.赤とんぼの名前調べはむつかしい

こんなのが取れたよ.みんなに発表.

初級マイスター講座の修了証書授与


自分が採集して名前を調べた昆虫を発表.スケッチ描いてもみんなに披露しました.観察できた昆虫はミヤマシジミだけでなく,ノシメトンボ,コノシメトンボ,アキアカネ,ナツアカネなどいろんな種類のアカトンボがいました.最後に,中村会長より修了証書を受け取りました.参加者は17家族46名でした.