2019年10月21日月曜日

ミヤマシジミ・サミット2019の報告 


2019年度のミヤマシジミ研究会の講演会・研究発表会は,ミヤマシジミ・サミット2019と銘打って開催されました。 

 ミヤマシジミ研究会は,身近な自然環境を大切にし,絶滅危惧種の保全に関心のある人々が集まり,みんなで里山の小さな命を守っていく活動を行っています.その一環として毎年,講演会と活動報告会を開催しています.2019年度は全国にあるミヤマシジミの保護や研究に係わっている団体が,平成311019日(土),長野県塩尻市塩尻総合文化センターに会して,情報と意見交換を行いミヤマシジミの保全活動を全国に発信していくためにミヤマシジミ・サミットを開催しました.


1部 「第1回ミヤマシジミ会議」10時30分~1200


 全国にあるミヤマシジミの研究会や保護団体,関係機関,企業が一堂に会して,各地域の現状や保全活動のあり方等の情報と意見交換を行い,大会宣言案を作りました.ここではミヤマシジミの食草であるコマツナギの管理の仕方などについて議論がなされました.また保全団体と行政機関とが綿密に連絡取り合うことが確認されました.

第1部「第1回ミヤマシジミ会議」 会議開催を告げる
ミヤマシジミ研究会幹事の土田秀実幹事(辰野いきも
のネットワーク会長)(中央)右は小林正征幹事(ミ
ヤマ株式会社)左は中村寛志会長

サミットの趣旨説明をする中村会長
















参加した団体
伊那市ミヤマシジミを守る会 
辰野いきものネットワーク
上牧里山づくりの会
 糠地郷蝶の里山プロジェクト
 新潟県十日町水辺の楽校 
 天竜川上流河川事務所
 伊那市役所耕地林務課 
 長野県自然保護課
 山梨県富士山科学研究所    
 静岡県立天竜高等学校
ミヤマ株式会社



  

2部 「ミヤマシジミセミナー」
「幸せを運ぶ青いチョウ“ミヤマシジミ”について学ぼう」
午後の部は「幸せを運ぶ青いチョウ“ミヤマシジミ”について学ぼう」テーマでのセミナーが一般公開で行われ,約60名もの参加者があった.まず最初に信州大学理学部教授東城幸治先生の基調講演「DNA解析による昆虫のルーツ」があり,DNA解析を使った昆虫の系統分類について易しくて興味あるお話があった.
第2部ミヤマシジミセミナー開催直前.
60名近くの多くの参加者があった.











中村会長の開会挨拶
(東城先生講演要旨)私たち生きものたちは例外なくDNAを基盤とする遺伝情報をもち、親から子、子から孫へと、代々受け継がれていきます。そのような生物の遺伝情報は、それぞれの生物の歴史(進化史)を紐解くことにも大きく貢献します。「遺伝子」や「DNA」、「遺伝系統」などの専門用語は、難解なものとしてイメージされがちですが、「あの家系は音楽の才能がある、絵が上手、スポーツが得意」などと同様に捉えることができ、「遺伝系統」は「家系」や「血筋」と捉えると身近に感じられると思います。本講演では、信州の昆虫に焦点を当て、その遺伝子解析研究から明らかになった進化史を紹介するとともに、生物多様性の観点から、信州は世界的にも重要な地域(ホットスポット)であることをお伝えしたいと思います。


東城幸治先生(信州大学理学部教授)による
基調講演「DNA解析による昆虫のルーツ」

続いて,中村寛志会長から「ミヤマシジミの研究と保全活動の報告」があった.その中で昨年の長野県科学研究費による「高齢者の健康と生きがいの評価」についての研究において,ミヤマシジミの保全活動に参加している高齢者は,参加していない人よりも心身ともに健康であったという結果が報告された.
長野県科学研究費による研究概要.報告のスライドから

中村会長による「ミヤマシジミの
研究と保全活動の報告」













休憩をはさんで,パネルディスカッションでは,以下の6人の方による活動報告がなされた.
北原正彦氏(山梨県富士山科学研究所)の報告
山梨県のミヤマシジミの分布と変遷:
その危機的現況について





発表スライドから 
白州のミヤマシジミ


高橋洋一氏(十日町水辺の楽校)による
水辺の楽校と信濃川のミヤマシジミについて」の報告

加藤秀世氏(静岡県立天竜高等学校)による
「静岡県立天竜高等学校環境科のミヤマシジミ保護活動」の報告
横尾 早衣子氏(ミヤマ株式会社)による
ミヤマ株式会社のミヤマシジミ保護活動について」



発表スライドから
産卵試験の様子












内山輝美氏(伊那市耕地林務課)による
昆虫の採集・観察会の活動報告」



発表スライドから
ミヤマシジミ脱出ゲーム










千賀義博氏(伊那西小学校)による
     「 伊那西小学校のミヤマシジミ保護活動について」の報告
コメンテーターの那須野雅好氏(安曇野市教育委員会)
による活動報告についてのコメント













コメンテーターの東城幸治先生による総評














最後に中村会長によって午前中のミヤマシジミ会議で作成された大会宣言案が読み上げられ,参加者全員の拍手で大会宣言が採択され,ミヤマシジミ・サミットは大成功のうちに終了しました.
大会宣言を参加者全員で採択

 「ミヤマシジミ・サミット2019」大会宣言 

今,地球上の生物多様性が,我々人間の営みによって減少しつつあります.そのなかでも里山に住む身近な生きものに,我々の生活様式の変化によって絶滅の危機が迫りつつあります.ミヤマシジミはかつて東日本を中心に河原や草原,田畑の土手などに広く分布していました.しかし,食草であるコマツナギが少なくなり,生息地が急激に減少してきました.そのため環境省レッドリストで絶滅危惧II類であったのが,2012年にはIB類にランクアップして絶滅の危機が増しています.
そこでミヤマシジミ研究会は,昔から里山で人間と共存して生活してきた小さな青いチョウ,ミヤマシジミをみんなで守っていくために「ミヤマシジミ・サミット」の開催を企画しました.本サミットにおいて,ミヤマシジミの保全に関する活動の基本方針を皆さんと共有したいと思います. 
Ⅰ ミヤマシジミの保全に関する活動の基本方針
(1) ミヤマシジミ保全の基本方針として,まず第1に,私たちは少なくなったミヤマシジミの生息地と生息環境を保全していく活動をおこなって行きます.次いで食草のコマツナギを植栽して保護区を設け,ミヤマシジミの生息地を増やしていく活動をおこなって行きます.さらに,保全活動に役立てるために,ミヤマシジミに関する様々な研究を進めていきます. 
(2) 保全活動を行っている人々の交流と情報交換を図り,それぞれの地域で活動が活性化するよう努めます.そのため皆で協力して,ブログやSNSなどを利用したネットワーク化を進めていきます. 
(3) ミヤマシジミを多くの人に知ってもらうことが保全の第一歩であると考えます.そこでシンポジウム,セミナー,環境教育の実施や,出版物,関連商品の開発を行い,ミヤマシジミを含めた生物多様性保全活動の普及に努めます. 
Ⅱ ミヤマシジミ保全 宣言
 私たちは,ミヤマシジミとミヤマシジミが生息する環境を保全するために,上で述べた「ミヤマシジミ保全に関する基本方針」に沿って,各々の立場でできることを積極的に行っていきます.さらに私たちは,この活動を進めるとともに,多くの人に伝え,広めていくことによって,ミヤマシジミとその生息環境,さらには多様な生き物に満ち溢れた美しい地球環境を次世代に残していくことを宣言します.

2019 10 19
ミヤマシジミ・サミット出席者一同
*会場スナップ
ミヤマシジミの写真を展示







受け付けの準備











*ミヤマシジミいい写真















2019年10月8日火曜日

辰野東小学校でミヤマシジミを使った環境授業

ミヤマシジミ研究会の中村と辰野生きものネットワークの土田さんが,辰野東小学校で今年度2回ミヤマシジミを使った環境授業を行いました.

【第1回目 2019年6月24日 食草のコマツナギ植栽】
辰野東小学校の3年生の理科の授業の一環で,校庭にミヤマシジミの食草であるコマツナギを植えてミヤマシジミを育てようということになり,ミヤマシジミ研究会が生徒たちに技術指導をすることになりました.

みんなでコマツナギを植える作業をしました












水も十分にやりましょう
 











校長室で育てたオオムラサキを空に放しました.画面右端の校舎に壁の黒い塊が飛んでいるオオムラサキ.
生徒たちが見あげています.2匹放したうちの1匹は森へ飛んでいく途中でヒヨドリに捕まってしまいました.
【第2回目 2019年10月8日 ミヤマシジミの学習】
この日は,チョウの体のつくりを学習し,ミヤマシジミの標本や荒神山の保護区から採集してきた生きているオスとメスを観察しました.また,ミヤマシジミによく似たツバメシジミとヤマトシジミも見比べて,翅の模様の違いを学習しました.

土田さんの説明を熱心に聞く生徒たち






プラスチックカップに入った生きたミヤマシジミを熱心に観察.
観察したチョウは,夏に植栽したコマツナギに放してやりました


















辰野町荒神山のミヤマシジミのオス個体
9月1日の観察会にて
交尾中のペアー 同じく観察会にて