令和6年度の講演会・活動報告会のテーマ
- 保全活動の現場から -
日時:令和6年12月14日(土)13:30~17:00会場:道の駅大芝高原 森の学び舎 (入場無料・事前申込み不要)〒399-4511 長野県上伊那郡南箕輪村4825−1 TEL:0265-72-2180
(趣旨)
ミヤマシジミ研究会の活動報告会は,ミヤマシジミを守る活動に係わっている人々が情報を交換するとともに交流を深め,さらに絶滅危惧種や生物多様性の保全・保護活動の一層の推進と拡大を図ることを目的として毎年開催しております.
今年は基調講演として安曇野のオオルリシジミ保護対策会議代表の那須野雅好氏に,埋蔵文化財の制度を参考にした安曇野市における希少種保全の画期的な取り組みについてお話をいただきます.続いて保全活動の現場から,コマツナギ管理と草刈り時期の提言や人工産卵技術の実践事例などを報告してもらい,質問や意見交換など会場の参加者を含めた総合討論の場を企画しました.
以下に研究会の様子を報告します.
研究会会場となった信州大芝高原の道の駅にある 森の学び舎(南箕輪村防災研修センター)多目的ホール |
椅子を急遽追加するほど開会前から多くの方が来場 参加者は57名であった |
プログラム:
13:00 受付開始
13:30 開会 進行 江田慧子(関西学院大学)
挨拶 中村寛志会長
中村会長の挨拶と今回のテーマ説明 |
13:35 基調講演
「埋蔵文化財とミヤマシジミ~安曇野市におけるレッドデータブック活用術~」那須野雅好 氏(オオルリシジミ保護対策会議代表)
那須野雅好氏(オオルリシジミ保護対策会議代表) |
(講演要旨)近年,国や県を始め市町村レベルでも「レッドデータブック(以下 RDB)」を作成する公共団体等が増えてきました.しかし,RDB だけでは単なるリストに過ぎず,希少種等の生息地が開発計画の中にあってもそれを保全する仕組みや手段は限られています.長野県安曇野市では市版 RDB の作成に加えて「安曇野市生物多様性アドバイザー会議」を創設し,希少種等保全のための独自の対策を行ってきました.その手法は埋蔵文化財保護に習い,計画段階での開発行為の把握と,開発事業者との事前協議により,適切なミチゲーション(Mitigation)を導き出すというものです.埋蔵文化財は,法律により開発行為前の届出が義務付けられ,遺跡がある場合は発掘調査を行い,記録保存や出土遺物の保管・活用がどの自治体でも行われています.それに伴い考古学の専門職の採用も進められてきました.それに比べると生物種のおかれている現状は厳しく,希少種保全のための制度が無いため,RDBを作成しても実際の保全に活用されない現状がみられます.安曇野市の事例はどの地方自治体でも実施可能で現実的な手法と考えています.このような手法が広がり将来制度化され,RDBを活用した希少種保全が全ての自治体で行われることを願っています.
(発表スライドから)
ミヤマシジミ(交尾ペア)とウラナミシジミ(右) |
講演の内容一覧 |
安曇野市版レッドデータブック |
14:15 活動報告
(1)「畦畔のコマツナギの管理と草刈り時期」
出戸秀典 氏(ミヤマシジミ里の会)
出戸秀典 氏(ミヤマシジミ里の会・事務局長) |
(発表スライドから)
飯島町と中川村にはミヤマシジミが高密度に生息する畦畔が点々と残されている. その畦畔は色々なタイミングで色々な方法で草刈りが行われる. |
研究の結果,草刈りの頻度・高さ・時期で ミヤマシジミに最適な草刈り条件が明らかになった |
ミヤマシジミ保全のための草刈りで希少な在来植物を守ることにも繋がります |
(2) 人工産卵事例1「新たにミヤマシジミの生息地をつくる」岡村 裕 氏(伊那ミヤマシジミを守る会)
岡村 裕 氏(伊那ミヤマシジミを守る会会長) |
(発表資料から)
(3) 人工産卵事例2「辰野東小学校」
土田秀実 氏(辰野生きものネットワーク)
土田秀実 氏(辰野生きものネットワーク会長) |
(発表スライドから)
辰野東小学校3年生のクラスで昆虫教室 |
構内にコマツナギを植栽してミヤマシジミ成虫を導入 |
ミヤマシジミ保護区が誕生 |
15:30 事例報告
(1)「ミヤマシジミ保護区の設置」 唐澤 聡 氏(NTN株式会社長野製作所)
唐澤 聡 氏(NTN株式会社長野製作所) |
NTN株式会社 長野製作所 は、NTN環境基本方針のもと「生物多様性への取り組み」の一環として、2019年に長野県と「生物多様性保全パートナーシップ協定」を締結しミヤマシジミの保護活動を実施させていただいています。
2020年から2023年までは1化成虫が年々増加してくれましたが、2024年は前々年より減少してしまいました。前年は保護ケージ内の発生が少なく、屋外の発生が多かったのですが、2024年はその逆の現象となりました。このことから、産卵場所の温度やコマツナギの生育状況などの環境変化で、生存率が大きく変動するのではないかと思われます。したがいまして、保護区の環境は統一せず、保護ケージを複数個準備し、傾斜地や平坦地など変化があったほうが良いかもしれません。
2024年6月末に保護ケージ内でアブラムシが大発生して、やむなく農薬散布して駆除しました。その影響のため2化の発生には期待していませんでしたが、7月に保護ケージから2化成虫が44匹発生し、さらに3化成虫は142匹の大発生となりました。この保護ケージで大発生してくれた要因は分かりませんが、ハチなどの外敵から保護するために、今年の春に保護ケージを目の細かな網に取替えたことも良かったかもしれません。2024年は過去最高 506匹 の成虫が確認できましたので、今後も更なる定着化に取り組んで参ります。
(発表スライドから)
製作所構内に保護区設置(2019年)
ミヤマシジミ成虫発生数 順調に増加 |
(2)「ミヤマシジミ保護活動の報告」 宮田紀英 氏(わかぜん)
宮田紀英 氏(わかぜん) |
「わかぜん」は2023年に発足した保全団体で、長野県を中心とする全国約60名の10-20代の若者が環境保全を行っている(公式X:https://x.com/wakazenkoushiki)。わかぜんは他保全団体とのコラボ活動を展開しているが、ミヤマシジミについては独自に保全計画を作成したうえで主体的な活動を行っている。
保全地は池田町の高瀬川河川敷に位置し、4ヶ所のコアエリアを持つ。活動は主に外来種駆除であり、ハリエンジュやシナダレスズメガヤ、コセンダングサ、メマツヨイグサといった在来生態系に大きな影響を及ぼしうる種を取り除いている。また、個体数のモニタリングや生息地を含むゴルフ場利用者への看板や直接の対話による呼びかけ、普及啓発も行っている。活動の成果として、ミヤマシジミ個体数の増加と草原生態系の回復が挙げられる。前者について、2024年はミヤマシジミの最も多かった日の個体数が52頭と、2020年の7頭と比べ大きく増加した。そして、草原環境全体が回復したことでミヤマシジミの吸蜜源が増えるとともに、他の草原性の動植物がよく見られるようになった。また、外来種の駆除方法がほぼ確立し、周辺地域にも適用可能となった。
今後の展望として、現在の4つのコアエリアのより強固な接続、周辺地域の保全などが挙げられる。また、有識者と連携して現在の保全地で域外保全の技術を確立させることで、危急度の高い地域のミヤマシジミの救済にも着手したいと考えている。
(発表スライドから)
わかものの集まりです |
絶滅危惧種の保全活動 |
最後に発表者と会場の皆さんとの意見交換会を行いました.多くの質問や意見が出るとともに,各地のミヤマシジミの生息状況などが参加者から報告されました.予定した70分はあっという間に過ぎてしまい今年の研究活動報告会が終了しました.
会場風景 |
主催:ミヤマシジミ研究会
後援:信州生物多様性ネットきずな,ミヤマ株式会社,NTN株式会社長野製作所
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